攻撃効率の浸透を!-秋田ノーザンハピネッツ前田健滋朗AC-

2018-19シーズン、オーストラリアのメルボルン・ユナイテッドでアシスタントコーチと努めた前田健滋朗は秋田ノーザンハピネッツのアシスタントコーチに就任した。
オーストラリアへのコーチ留学から秋田へというのは特殊なケースだと個人的に感じたが、彼の経歴はとても不思議だ。

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プロのキャリアがスタートしたのはトヨタ自動車アルバルク東京(現 アルバルク東京)からだった。大学院時代に許可をもらいトヨタの練習見学を毎日していた。
やがてドナルド・ベックヘッドコーチ(現 富山グラウジーズ)からレポート出すように求められ、大学院2年目にはインターンとして参加することが認められた。卒業と同時にスカウティングコーチになった。
「コーチベックと伊藤拓摩(アルバルク東京テクニカルアドバイザー)さん、会社(トヨタ自動車)には感謝している。自分のような人間を雇い入れることは大変だと思うし、尽力してくれた」

オーストラリアで得たものは何かをたずねると「コーチングだけでなくチームビルディングが勉強になった。オーストラリアで得た経験をこのチーム(秋田)で生かしたい」(詳しくは『Basketball Lab 日本のバスケットボールの未来。』東洋出版)
コーチ留学中の日本のバスケに変化については「変わった部分もある。この2シーズンで戦術、特にオフェンスの部分は大きく変わった」と印象と語った。
また「攻撃が変化したことで当然守備も変わった。そこはやはりルカ(パヴィチェヴィッチ アルバルク東京ヘッドコーチ)の存在が大きい」と分析する。

Bリーグは基本同一カード2連戦。2試合戦う上で1戦目と2戦目でスカウティングが変わるかどうかについては「変わることもある。もちろん変わらない部分もある。ひとつひとつの細かい守りというよりは自分たちが最終的に相手をどうさせたいのか。そのコンセプトは土日の連戦では変わらない」
例えばポストプレイが得意な選手に対してシュートを打たせなくないのであれば抑え方の目的によって方法論が変化し「目的は基本同じ。方法論が試合中なのか土日前の練習なのかで変わる」と教えてくれた。
前田顕蔵ヘッドコーチも「健滋朗がいるのでスカウトと自分たちのスタイルのバランスを今シーズンは大事にしたい」と全幅の信頼を寄せる。

プロが読み解くにスタッツについていくつか聞いてみた。疑問はスカウティングする上でスタッツのどの部分を最初に見るのについてである。
「一番最初に見るのは攻撃と守備の効率」だという。攻撃効率はPoint Per Possessionとも言われるものだ。

誰が何点取ったとかチームが何点取ったといった数字では判断していないそうだ。「得点が90点取れた80点取れたとかは正直な話どうでも良い。今までの自分たちがどうであったのか。それを良くしてきたいので、それが出来たのか出来ていないのか。勝利した試合であれば、それが自分たちが目指した数字(効率)に照らし合わせて高いのか低いのか同じくらいなのかを比較することが大事だ」

数字を単体してとらえるのではなく比較することが重要だと強調する。
「スカウティングであれば、スカウティングのための比較をする。自チームを振り返るのであれば過去と今までの平均、今日の試合の効率を比べる。必ず何かと何かを比較する」

彼自身はスタッツの知識得たのは大学院生のとき。
『サッカー データ革命 ロングボールは時代遅れか』などが参考になったという。
「自分よりも数字について聞くのであれば、(千葉ジェッツの)木村和希さんが詳しい。彼はすごいと思う。自分も色々と教えてもらっている」

一般のブースターやファンにもう少し楽しめるスタッツの見方はないかたずねてみたが、「攻撃の効率。それしかないと思う」と笑顔で返答した。
「例えばオフェンスリバウンドのパーセンテージで、仮に1位であったとしてもそれが勝つための要因かどうか。オフェンスリバウンドを取れば取るほど攻撃の効率が上がるのか下がるのか。もし相手が取れば取るほど上がるのであれば、スカウティングとして考慮しなければならない。攻撃効率に関係ないのであればスカウトのポイントではないし、的はずれなスカウトになってしまう」

個人的に攻撃効率が広まることは簡単なことではないという質問については「攻撃効率が浸透するのは難しいことだと思うが、そこを見て欲しい」と揺るぎない自信をみせた。
アルバルク東京での優勝やオーストラリアでのコーチ留学を経た経験と知識を持つ前田健滋朗は秋田ノーザンハピネッツにとっての新しいデータ革命なのだ。

(文=定山 敬)