過去の蓄積から未来を予見する-千葉ジェッツ ビデオアナリスト 木村和希-

アナリストとしての危機感

その後、シュートの確率、ポストプレーの話などがあり、育成や未来についての話題にも及んだ。
「かつてはビッグマンのポストプレーの多さが目立ったが、最近の育成世代は変わってきている。
仮に育成世代が全くポストプレーをしないと想定するとピックアンドロールは非常にうまいが相手のポストプレーを全く守れない選手が出てくるかもしれない。
時代は循環してまたポストプレーがうまい選手が出てくればピックアンドドールよりもポストプレーが有利な戦術に可能性もありうる」

今はボールを使うスポーツ全般が勝つために確率や効率を以前よりも求めうようになった。確率や効率を求めるとまためぐりめぐって1回転する可能性があるのではないか。
つまり、いま廃(すた)れようとしている戦い方やプレーがまた改めて必要になるのではないかという疑問に「その可能性はあると思う。インサイドとスリーポイントだけだとミドルレンジの守れないチームが出てきて、そのミドルレンジをうまくついてくるバスケが全盛になるかもしれない。コーチではなくアナリストだからこそ、その(未来を予見する)部分に危機感を感じている。コーチは勝つための効率や確率を追い求めるべきだと思う。その裏の部分を考察するのがアナリストの仕事だ」

「例えばポストプレーに関しては非常に危惧していて、ポストプレーが守れないから海外で上手い選手を呼んでくる。
その循環だとずっと海外の後追いしかできない。危機感を感じているのは、その部分の危機感を感じている人があまりいないことだ。
トレンドだけになるのは危険で、トレンドにはない落とし穴が何かを探すリスクマネジメントをしなければならない。
トレンドを追いかけるだけではダメだと思う」

ラグビーはジャパンウェイを掲げ躍進した。男子のバスケ界はまだ世界的な流行を追いかけることで精一杯な印象を受ける。
今後育成世代が注目を浴びる日が来る。そのときにまでにたくさんの情報や過去の蓄積が必要となってくる。

インタビューで知ることも多く、情報はもっとオープンにしたほうがよいのではないかという思いが強くななった。

そのことを木村に聞くと「今までは情報を持っているチームが有利で、独占が存在する時点が我々のカルチャーは発展しない。オープンにするべきで、その中で戦う必要があると思う。特定の情報を持っているというイニシアチブだけで戦う時代はなくなっている」

オープンにすれば「野生」のアナリストやコーチがもっとたくさん生まれてくるのか
「外側にいう人たちが興味を持ってくれる流れが必要だ。全くバスケを知らないエンジニアの人がその部分を見ることで新たな発見や価値が生まれてくると思っている。
それを生かすか殺すかは現場の責任になる。そういう人が生まれる環境が必要だ」

B1、B2でもアナリスト、ビデオアナリストが少しずつ増えてきているが、もっと増えてほしいと木村は望んでいる。

「今までアナリストは希少で希少価値だからこそ有利だったが、それではダメだと思う。 競争してお互いの価値を見出していく必要がある。たくさんの人にアナリストになってもらいたい」

(文=定山 敬)