【プレミアム限定】千葉ジェッツ エリック・ガードー、ロングインタビューVol.2

エリック・ガードーHC(Eric Gardow)インタビューVol.2

―あなたにとって『家族』とは何ですか?
自分が経験してきた事を振り返ってみると、どのチームにおいてもお互いが密な関係を持たなければ、このバスケットボールというスポーツは成り立たなかっただろうと思っています。
本当の家族よりもチームと過ごす時間が圧倒的に多く、この千葉に居てもそれは変わりません。
良いパフォーマンスを引き出すためには家族のように、どのようなことでも分かち合える関係でなけれればならないと思っています。
例えば、日本人選手なら他県から、外国人選手なら海外から家族(両親や兄弟)を置いてこの千葉にやってくることもあるので、選手たちが何の心配もせずに安心してプレーするために、チームの中にも「家族」という環境を作ることで、どのようなことでも話し合えたり出来るのではないかと思っています。ここにきた時から千葉のファミリーを作りたいと思っていました。遠征の長い移動、食事も皆で行います。シーズンを通して嬉しい事も悲しい事も皆で乗り越えていかなければなりません。長いシーズンは短いスプリント(ダッシュ)ではなくマラソンのようなものだとよく例えて言っています。ですので、選手たちとの関係がうまくいっていないと(全てを)乗り越えていくことは難しいですね。
選手たちそれぞれに個性を生かして欲しい。それぞれの性格を出すことでチームが良くなっていきます。いつも選手たちに言っていることがあります。それは君のチームではなく、みんなのチームだと。皆が平等で、私はその中のコーチであるに過ぎないのだと。皆が平等だから一人ひとりが責任を持ち、リーダーシップを発揮してプレーしていかなければならないと思っています。勿論、欲を言えば勝ちたいですし、優勝したいのですが、一番大事なの事はシーズンが終わってもより良い関係であること、選手たちから愛されるコーチで居続けることなのです。
先日の記者会見で涙したことはチームの前では初めてではありません。その事は決して恥ずかしいことでもないと思っています。自分自身がどのような人間であるかのを表現することで、反対に強くなれるのだと思っています。今一番チームに取って痛い事は、ジョージ・リーチがケガの為に離脱(アキレス腱断裂で全治6ヶ月)ことです。ジョージはbjリーグを長く経験し、彼が学んだ経験をチームで共有することが出来ていたのですが、それが失われてしまったことが非常に痛いです。彼は日本人選手たちとのコミニュケーションも日本語で行ってますし、bjリーグの経験がない外国人選手との溝を埋める蝶番(ちょうつがい)のような役目をしてくれていました。食事をしたり一緒に多くの時間を過ごしていましたが、彼の不在によって非常に大きな寂しさを感じます。日本の生活に慣れるアドバイスも彼から受けていたので、尚の事、寂しいです。

―「家族の絆」を生み出す方法は、日本であっても、カタールであっても、どの国に行っても変わらないのか?
何処に行っても変わりません。カタールでも日本でも。大学バスケをコーチする時から、このアプローチに何ら変化はありませんよ。実際、カタール時代にコーチしていたモリース(ハーグロー)とガストン(モリヴァ)が私の信念を信じてまた一緒にプレーする事を希望し、新しい家族をこの日本で一緒に作ろうと思って来てくれましたから。
パズルのピースのように様々な選手たちが集まって来ていて、先ずカタールからモリース、ガストン。実はジャメルはモリースが子供時代から一緒にプレーしていました。私はジェメルとの面識はこの千葉に来るまでありませんでしたが、彼のことを知ってはいました。bjリーグに経験のあるジョージがチームに色々なことをプラスしてくれましたし、東京アパッチから板倉(令奈)、中村(友也)、田中(健介)の3選手に千葉出身の選手たち(亀崎光博、八幡幸助、佐藤博紀)が加わり、面白いダイナミズム(内に秘めた力)が構築され、今後が楽しみなチームになっています。

―日本の生活、bjリーグのスタイルに慣れた?
日本の事が以前から好きでした。2007年にカタール代表で来日してからも歴史、文化、食事、親切さ、努力、勤勉さ、そういう部分が特徴的だと思っています。妻と11ヶ月の双子の子供がいますが、病院や食事などの日常的な面でもう少し日本に慣れていかなければと思うことがあります。もし妻と二人きりなら然程苦労しなかったと思いますが、子供たちの存在が一番大きな違いだと思います。自転車を購入して、練習場にも自転車で来ていますし、移動でも電車やバスを利用できるので、日本の生活にも慣れてきていると思います。日本語をもう少し勉強したいのですが、時間の余裕がなく、まだ少しアラビア語が残っていますね。住んでいる近所も気に入っていますし、練習場(船橋アリーナ)に来てみると、毎日必ず多くの人達が年令に関係なく何がしかのスポーツをしていて、アクティブだと感心しています。寿司とラーメンが好きです。
bjリーグの事は以前から勉強していて、知り合いのコーチや選手がプレーしていたこともあるので、彼らに話を聞いていました。土曜日が18時、日曜日が14時、その時間の使い方にもう少し慣れていかなければなりません。

―カタールでは2日連続開催といったスケジュールは無かった?
レギュラーシーズンでは週に3回か4回試合がありましたが、常に対戦相手が異なります。ガルフカップ(カップ戦)などを入れると週に5日試合していたこともありますが、いずれにせよbjリーグのように同じ相手と二日間対戦することはなかったですね。

―年間どれくらいの試合数だったのか?
1シーズン大体40試合くらいで多くても48試合ですね。あとはアジア選手権、ガルフカップ、アラブ・クラブ選手権などもありました。

―まだ2試合連続に慣れない?
大学でも土日開催はありましたが、やはり対戦相手は異なりましたね。
秋田との4連戦は非常にタフな試合だったので、キツかったです。秋田も同じように思っているかもしれませんね。秋田とは次の対戦まで時間があるので、少しホッとしています。大変なのは我々だけでなく、仙台も土日(12日、13日)に試合をして、今週(17日、18日)対戦しますし、横浜も5日間で4試合消化してから2週間くらい間が空くスケジュールであったり、リーグ全てのチームが大変だと思います。2試合連続同一カードであれ、4試合連続であれ、アプローチの方法は変わりません。1試合1試合大切に戦っていくだけですから。
慣れたというよりも慣れていかないといけませんね。時々ALLJAPAN(全日本総合バスケットボール選手権大会)の事が頭をよぎりますが、まだ2月や3月、その先の事は考えていません。目の前に試合を集中していきたいと思います。富山戦(26日、27日)以降の対戦相手はまだ確認していませんね。

―場当たりな感じがしますが?
対戦相手がどうのではなく、練習スケジュールが決まっているので、中3日、中4日と、そういった考え方でメニューを組んでいきます。

―その練習メニューの中身を教えていただけますか?
そうですね、もし移動日を含まずに4日間練習時間がある場合は、その週の初日から対戦相手を想定した練習をしていきます。チームのセットオフェンスを2,3教えて、2日目はインバウンドプレー、3日目は相手選手一人ひとりののクセや、どう守るかなどをレポートにしたものを選手に渡していきます。4日の中に1日を基礎練習の時間としています(3日しか練習日程がなくても必ず行う)。
スカウトワークも1日の練習で最低でも15分くらいの時間を設けています。

―世界のトレンドについて。今バスケ界で一番流行っている戦術は?
NBAは身体能力高い選手たちを活かす戦術が主流だと思いますし、パスでボールを共有していくのはヨーロッパのバスケの方だと思います。うちはそのバランスを上手く取ってピックアンドロールにしても、アイソレーションにしても、チームでアタック出来るように心がけています。

―NBAとは違い身体能力が高い選手が多くないチームや日本人のように際立った身体能力がない選手が戦っていくには?
先ず第一に相手のスカウトワークをしっかりすることで、コートに立った時の選手の不安や驚きを消し去ることが出来ます。スカウトワークをやった後に自分たちのオフェンス、ディフェンスの修正点を直していくことです。そのバランスだと思います。

―それは仮に明日、高校生を教えることになっても変わらない?
それがどこであれ、自分自身のアプローチの方法は変わらないと思います。セットプレーで何をするかは変わるかもしれませんが、指導方法は変わらないと思います。自分が作り上げてきたシステムには自信を持っています。アメリカでもカタールでも良い成績を残すことが出来ましたし、千葉でもまだ始まったばかりですが、良い成績を残せていると思います。同じ素材がチームに揃っていれば良いのですが、今の千葉は外国人選手が一人欠けていて、他のチームで外国人選手が4人、5人といる時はどうしても苦しくなります。それでも今の成績には満足していますし、自分の指導方法にも自信を持っています。

―足りていないフィジカルな部分を補うための練習を日本人選手はどうやっていけば良いのか?
選手が幼い時期から始めること。ミニバスのレベルからです。より良く堅実な方法で、何故フィジカルな練習をするのか、目的意識を与えることです。例えばリバウンドを取るためのポジション取りであったり、ディフェンスであったり、オフェンスではフリースローを貰うためであったり、何故フィジカルが必要なのかといった目的意識を持たせることが重要です。若い時から接触する(コンタクト)プレーを恐れないようにすることです。
日本人選手はフィジカルで劣っている部分が沢山ありますが、bjリーグの選手たちは3,4,5番(スモールフォワード、パワーフォワード、センター)に外国人選手が多いので、僅か6年間の間に急速にフィジカルの部分で進歩しているのではないかといった内容の話を先日フィスマンHC(日本男子代表監督)と、その時に偶然にも話題にしていました。彼も私も練習方法にあまり違いはないと思います。例えば、普通のレイアップシュートの練習でもボクシングのグローブや格闘技用ののミッドをつけて、ボールを取ろうとしたりします。
プロになってから始めるのではなく、若い時から始めるべき練習です。毎試合毎試合、試合によってコールの基準が変わる可能性あるので、その基準に早く慣れることです。昨日強い当たりでもファールを取られることはなかったが、今日の試合で取られてしまうのであれば、ディフェンスのやり方を微妙に変える必要性があります。アグレッシブにプレーすることで相手チームよりも多くのフリースローを得る機会生まれます。その機会が生まれるということは相手の主力選手にファールが多くなり、ベンチにいる時間が長くなる筈です。千葉ではそこを意識してコーチしています。

―シーズン前に東京でトライアウトを行った時も基礎を重視していて、通常のトライアウとは違う印象を受けたが、トライアウトの方法もどの国でも変わらないのか?
選手のフットワーク、スキル、バスケIQ、身体能力を見ていきたいので、いつも変わりはありません。

―日本人選手の基礎(ファンダメンタル)についての印象は?

とても素晴らしいと思ました。特にバスケIQが皆一様に高く、教えてきた中では一番高いと思います。もし一つ問題点を挙げるとしたら、世界のバスケレベルにおいて、フィジカルな部分が劣っていることです。グローバルなバスケを目指すのであれば、外国人選手と同じくらい当たりの強さが必要になります。それは体格だけでなく、性格の問題もあると思います。文化的にも日本人は『衝突』を避けたがる傾向にありますね。

―本来プロの選手にレベルの違いは無いはずだが、今のチームのレベルに大きな違いがあるように見える。そういった選手たちを教えていくことは大変ではないか?
能力が劣っているからこそ、チャレンジだと思います。プラスな要素も沢山抱えていて、ケガでジョージが不在、石田(剛規)も首と背中を痛めて調整中といった時に、控えのメンバーが対戦相手を想定したプレーをしてくれます。彼らの存在なしではチーム練習も出来ません。今日もエクストリームから一人練習生が参加していますが、そういった部分でも非常に助かっています。チームがイベントに参加する時も少ないメンバーでは、同じ選手ばかりがイベントに参加して、疲労が溜まってしまいますが、選手が沢山居ることで様々な選手をイベントに送り出すことが出来ます。選手の負担も減ります。

―勝つ為に非情になれるか?
負けることが嫌いです。勿論勝つことが好みますが、だからと言って自分の性格を変えてまでロッカールームで怒鳴り散らしたりすることはしません。何故なら、自分自身がどういう人間か分かっているつもりなので、自分らしくない発言をすると、選手たちが私の発言をを重要だと認識してくれなくなる可能性があります。
私達コーチは選手たちの意識を促すモーティベイタ―(motivator)であり、教師のような存在であって、ネガティブな方向へプレーを促す存在であってはならないのです。何かを変えたり、厳しきするのであれば、試合ではなく、練習から準備しておかなければならないと思っています。
練習で出来ないことが試合で出来るはずもありません。

―改めてコーチとは?
(一度聞き返して)コーチとは? 
(驚きの表情をみせて)リーダーであり、教師であり、時には兄貴であったり、父親のように振るまうそんな存在だと思います。
物事が成功している時ではなく、上手くいかない時にどうやって導いていくのか、その時初めて自分という存在が分かると思います。

―その兄弟、教師、リーダー、父親であるということが、コーチにとっての『家族』という考え方でしょうか?
そうです。食卓を囲んだ時に長いテーブルの一番前に座っている人です。

―プロバスケのヘッドコーチをしていなければ何の職業についていたと思う?
プロゴルファーになっていたと思います。

―理由は?
勿論ゴルフが好きだということが一番ですが、自然の中で気持ちよくプレー出来ること、常に頭の中でリスクを計算をしながらプレー出来ること、バスケットはチームスポーツなので、自分がダメでも仲間が助けてくれますが、個人競技なので自分のプレーが良ければお金が入りますけど、ダメなら入ってこないことが理由です。全く正反対の競技だからです。どちらを選ぶか悩むという意味では、黒髪(ブルネット=brunet)の女性か金髪(ブロンド=blonde)の女性のどちらと結婚するかに似ていまますよね(笑)

―因みにどちらが好きか?
それは勿論、黒髪(ブルネット)ですよ(笑)

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