スペイン・コーチ留学、保田尭之さんインタビュー(前編)


2012年2月3月にスペインにコーチ留学された保田尭之(やすだ たかゆき)さんという方がいらっしゃるということから、バスナビのコンセプトのひとつでもある「世界を目指す」ということに沿いながら、スペイン留学についてお聞きしました。

アテネ五輪~さいたま世界バスケでの衝撃

-宜しくお願い致します。それではまず保田さんの紹介、経歴みたいなものをお願い出来ますか?

こちらこそ宜しくお願い致します。僕は現在関西外国語大学外国語学部スペイン語学科4回生です。バスケット始めたのは中学入学時で、現在は主に地元中学男子バスケット部でアシスタントコーチをして4年目になります。

僕が教える中学の主顧問は僕の恩師で現在は大阪選抜のコーチもやられることもある教師兼コーチです。とても勉強させてもらっています。そして今年の2月中旬から3月の中旬にMenorca Ba’squetにコーチングを学ぶに行きました。

また今年の9月からサラマンカ大学の方で8ヶ月勉強しに行きます。その期間の中でコーチングライセンスを取ったり、プロチームに帯同する計画を立てている最中です。あちこちいきますが、昨年日本のプロバスケットチームのスタッフさんの紹介でインターナショナルスクール間のゲームの審判も経験させてもらいました。

あとスペインにはこれまでに三度、9月からの分で四度目になります。一度目は観光、二度目は次に行くサラマンカ大学に1ヶ月語学研修、三度目はメノルカです。

-それでは、早速質問に移りたいと思います。そもそもバスケットを始めたきっかけは何だったんでしょうか?あともうひとつ。なぜ現役選手を引退しコーチになったのでしょうか?

僕は小学生の頃、ずっとモトクロスに乗っていてプロに憧れていました。中学に入ってクラブには入ろうと思っていたのですが体力つけれたらいいかなという程度で、卓球部と迷ってました(笑) でもそのコーチと出会っていつの間にかバスケットに没頭してました。

正確には大学入学当初は部活に入ってました。大学選びもバスケットと学部を真剣に考えて選んでいました。しかし、勉強不振に悩まされた時「勉強して世界でバスケットがしたい」と思い苦渋の決断の末に部をやめ中学で指導することに。

知識を貯めてまた選手にと思っていましたが、スペインのスポーツに詳しい教授に相談したところ喝を入れられて(笑)

-そこで初めてスペインに出会うことになったんですね。なぜアメリカや他のヨーロッパの国ではなくスペインなんでしょうか?やはりスペインに詳しい教授に相談されたことがきっかけですか?

いいえ、僕はアテネ五輪のアルゼンチン優勝、世界バスケスペイン優勝、北京五輪スペイン準優勝を目の当たりにしてアメリカ以外の国(特にスペイン語圏)も世界で戦えると思い、大学を選ぶ際、バスケットを学ぶためにスペイン語を専攻するに至りました。スペイン人は比較的体格も日本人に似ているとも言われていることも日本にフィットすると考える1つの要因です。

-やっぱり2004年のアルゼンチンってインパクトあったんですね!!周囲のバスケ仲間というかバスケやっている人たちも同様な衝撃がありましたか?

いいえ、世界のバスケットを視野に入れている人は少なからず僕の周りにはいませんでしたし、日本のバスケットが強いやら弱いやら、そんな人ばかりでしたね。僕はあの決勝はビデオでほんと30回以上は見ました。

-その周りというのはコーチをされてらっしゃる方々ですか?

それも含めてですかね。あまり話題にも上がっていなかったと思います。今は特に様々な場所で中学校やら高校のコーチとお話しさせてもらいますが「スペイン?」っていう状態がまだまだ続いていますし、本気で日本のバスケット変えようっていう人は少ないのかなって思います。寂しいことですけどね。

スペインでの日々

-それではコーチングの話に戻ります。コーチングライセンスは日本協会にもありますが、こちらは取得されてますか?あるなしで答えていただいて、理由もお聞かせください。
ないです。今のところ特に強制力もありませんし、素人の先生がそんな大げさな指導は受けていないと言ってましたので(笑) 僕にはスペインで取得できるチャンスもあると考えていたのであまり深くは考えていません。

-スペインで取得するものはFIBAのコーチライセンスですか?それともスペイン国内のものですか?
そこも含め、現在メノルカのコーチに相談しているところです。

-メノルカのコーチのお話が出たのでそちらに話を移したいとおもいます。まず個人的に日本のコーチはすごく「怒る」方が多い印象があります。スペインのコーチの印象は?
そんなに数は見ていませんが、ユースではのびのびやらせている感じがありました。日本の強豪チーム多くはフレームどころか動きまで強制してしまうこともあると思うのですが、そんなことはありませんでした。

プロの方は仕事だから熱くなるどころでなくプライドむき出しです。僕はベンチの後ろからタイムアウトのときなど話を聞いたりハーフタイムも帯同させてもらいましたが非常にシビアな空気で、熱っぽく怒っていました。負け試合のあとも物を破損させるくらい怒っていましたね。選手も含め、逆にそういう感情だせる彼らがとても格好良かったです。

-試合と日々の練習でも違いますか?
もちろん練習でも怒ります。士気を上げるため、集中力を持たせるためにとても必要なことなのだと思います。特に試合はそれ以上の感情が入っていますが。練習でも集中力が切れた(とコーチが思った)時はエンドから往復ダッシュさせたりは頻繁にありました。

-ちなみにそのスペインのコーチの方はどの年代のコーチングを?
この話はメノルカバスケットのプロの練習や試合でのことです。基本的にはプロに帯同していましたが、下部組織のユースのカデテ(日本の中学生くらい)の練習や試合、その他クラブのユースも見学しました。

-ユースでの見学で気がついたことは?特に日本との違いという面で。
基本的にボールは必ず持っていましたね。つまりバスケットはボールを持たなきゃ楽しめないということです。育成段階において楽しむことが前提なのです。僕がプロのコーチや選手全員に日本のバスケットをプレゼンしました。

そこで日本で日常的に行われているフットワークを紹介したんですね。僕のスペイン語の表現が悪かったのかもしれませんがJuego de piernasと紹介し、ビデオも付けました。スペイン人は知りませんでしたね。見たこともないって笑っていました。

-Juego de piernas足のプレーって、直訳ですが、見たこともないと。ちなみにそのフットワークというのは日本では日本では何と呼ばれているんですか?
フットワークは日本バスケットの18番だと思いますよ。どこでも行われていますね。ランニング→ストレッチ→フットワークといった形で。

スペインには無いみたいなので言葉もないのではと。フットワークといった方が皆スッと理解してました。

-日本のプロの選手のインタビューなどを見ても練習や先生が厳しい、というのが多くて「楽しい」というのは少ないですね。もちろん「楽しい」はふざけてる、遊び半分ではなくて「真面目に楽しい」のだと思いますが。その楽しませるという面でどんな工夫がありましたか?ボールを持たせる、とおっしゃってますが具体的には。

日本ではボールなしで練習を行うことが多いです。野球の軍隊的な練習と同じように、体力・精神力を養えばきっと勝てる!!・・・のような。しかしスペインではアップにしろゲームをしながら体を温めたりします。

プロの場合はシステムバスケットということもあり、ディフェンスなしでオフェンスシステムを確認しながらオールコートを往復するなど合理的な練習が多かったです。時間も1回の練習1時間半から2時間くらいが平均ですからね。練習もテンポがよく、だらだらした時間は一切ありませんでした。

-最後の質問にします。日本のバスケの問題点とは何でしょうか?今お話されたことにすでに問題点があがった印象はありますが。

第一はトップリーグが2つあることですね。この現状はスペインのスタッフでも知っている方がいました。まずここが解消されないかぎり日本のバスケットは一体化しないでしょう。

そして世界で、いやアジアですら勝てませんよね。つまり、日本のバスケット界は1本になっていないのです。育成段階でも。中学から高校に上がれば違うバスケット、高校から大学に進学しても違うバスケットで一貫性がありません。

スペインも10年ほど前までは学校主体だったそうでしたが、今ではクラブ主体型で成功しています。日本がこれを完全にマネねることは難しいですが、日本風にアレンジすれば良いと思います。

バスケットはクラブチーム、勉強は学校と区別し、しかしバスケットに偏ってはいけません。そこで学校で一定の成績を取らなければクラブをすることができないというようにクラブチームと学校が連携することが理想です。

これは僕が教職課程を履修し、中学校でコーチし、スペインで見たところから考えましたがどうでしょうか?さらに教師の過剰な仕事の軽減、プロを目指したいと夢見る子どもの夢をかなえることにもなると思います。今は全く練習に来ない顧問も入れば、中途半端な知識で教えている現状もあるのです。

-つまり協会、リーグ、学校、クラブ、コーチが一体となって取り組むことが必要ということですね。ありがとうございました。

インタビュー後編ではメノルカというチームの事、そして語学面などについて詳しく伺っています。

インタビュー後編はこちらで。(リンク先:別サイト)