<column> 東京アパッチ選手達の広がり

<column> 東京アパッチ選手達の広がり 

(文=西本匡吾/@kyogo_nishimoto)

 
 2011-12シーズン、bjリーグは東京アパッチを除く19チームで開幕を迎えることとなった。
 東京アパッチは、スポンサーの確保が困難になったことにより、新シーズンを戦い抜くための資金を集めることができなかったという。6月7日にこの旨が発表され、所属選手は次々とbjリーグの各チームに入団していった。

 今シーズンからbjリーグに参戦する千葉ジェッツには、東京アパッチに所属していた板倉令奈、田中健介、中村友也の3人が加入した。アシスタントコーチである勝久ジェフリーを含めれば、4人の元東京アパッチ関係者が在籍している。

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 東京アパッチの選手達が2011-12シーズンに参戦できないことを告げられたのは、6月6日、プレスリースがあった日の前日だったという。
 
「僕はプロテクトされるかどうかわからなかったです。でも、東京でやりたいと思っていました。どうなるのかなというのは全然読めなかったんですが、びっくりしましたね。でも、しょうがないことなので。受け入れていました」 
 
 板倉令奈は冷静な口調だった。また、板倉は、エクスパッションドラフトにて岩手ビッグブルズに指名されていた。しかし、結果的には双方合意の元で入団はせず、FAとなり、千葉ジェッツに加入することとなった。

「ジェフ(※勝久ジェフリー)も(田中)健介も・・・知らない人のほうが少ないくらいなので、マネージャーも三菱(JBL)で一緒だったし。(石田)剛規もユニバーシアードで一緒だったので。なんか、移籍した感じがあまりしないです。新鮮さはないですね」

 移籍した感じがしない。この言葉を逆にとれば、初練習の8月1日の時点で、早くも新チーム溶け込んでいることを表現している。

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 昨シーズン、東京アパッチを率いたヘッドコーチは、ボブ・ヒルというアメリカ人だった。NBAのサンアントニオ・スパーズなどで指揮をとり、NBA通算310勝の戦歴をもつ名匠は、田中健介の新たな才能を見出した人物でもあった。

「シーズン前のアメリカ合宿でボブ・ヒルから『健介は良いシューターになれるよ。もっとシュートを練習しなよ』と言われました。僕も別にシュートは嫌いじゃなかったんですけど、ポイントガードという演出をする側だったので、あまりシュートは打ってなかったです。でも、もっと打って良いということを言われて、スリーポイントにも自信を持つことができました。ひとつの武器になったし、凄いプレーの幅も広がりましたね。あとは、僕のハードなプレイというか、運動量も見てくれていました」

 2009-10シーズンの出場はわずか4試合、時間にするとたったの18分だった田中は、ボブ・ヒルのもとで躍動した選手のひとりである。外国籍選手を押しのけて、スターターとしてプレイする機会もあった。

「ボブ・ヒルは僕を凄い評価してくれたというか。良く見てくれていました。チャンスも貰えたし、起用もしてくれた。それに応えるように頑張ってプレーしました。彼に出会えて良かったなと思います」

 自身のことについては滑らかに言葉を紡いだ田中も、話題が東京アパッチに変わると、ゆっくりと慎重に言葉を選んでいた。

「チームも僕も上がり調子だったので、残念ですよね。でも、しょうがないことです。終わってしまったことだし。うん。しょうがないです」

 東京アパッチのファンから絶大な人気を誇っていた中村友也も、千葉ジェッツへ加入した。「チョモ」の愛称で慕われる中村は、オフシーズンに東京アパッチブースターが選んだ人気投票では、1位を獲得した。

「本当にみなさんには感謝しています。一緒にbjリーグ、バスケットボールを盛り上げていければ良いですね」

 参戦が不可になったことについては、「しょうがないじゃないですか」と話す。表情には小さな笑いがあった。だが、それが心うちを正直に表しているものではなく、作りあげたものであったというのは、明らかだった。

「(参戦不可を聞いたときは)バスケットボール自体をどうしようかと考えました。でも、こうして千葉ジェッツでプレーすることができて良かったです」

 偶然かどうかは定かではないが、3人の選手は「しょうがない」と言い、わずかに沈黙の時を作った。その言葉なき時間は、名残惜しさと静かな決意を感じさせた。9月3日、千葉ジェッツはホームである船橋アリーナにてプレシーズンマッチを行う。元東京アパッチの選手たちは、どんなプレーで楽しませてくれるのだろうか。

 9月に入り、bjリーグのプレシーズンが始まる。2010-11シーズンを東京アパッチで過ごした全ての日本人選手は、すでに新しいチームに入団を決めている。

9/3日(土) 千葉ジェッツ プレシーズンゲーム開催