牧ダレン聡(埼玉ブロンコス) インタビュー


 

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(文=西本匡吾)

 パスをくれ。
 ジョン・ハンフリーと目があったとき、牧ダレン聡は迷うことなく彼からのメッセージを汲み取った。右45度の角度から無人のリングへパスを出す。投げ出されたボールは、空中でハンフリーの手に寸分の狂いなく収まり、一気にリングに叩きつけられた。対戦相手である仙台89ERSのロバート・ピアスHCは、堪らずタイムアウトを告げる。ダレンはベンチに戻りながら、2度、両手を叩き、小さな握り拳を作った。
 冷房施設のない飯能市民体育館には、さらなる熱気が生み出されていた。

「あれは懐かしかったね。ジョンと目が合ったら、急に見開いて。『アリウープのパスをくれ』と。彼とはケミストリーが合っているよ」
 
 かつて東京アパッチでチームメイトだったハンフリーとは、ユニフォームは違えど、今シーズンから同じチームでプレーする。かつての感覚もあってか、9月22日のプレシーズンの時点で、早くもお互いの波長を感じ合っていた。

「ジョンとは東京で一緒にやっていたので、(連携も)良かったね。彼はメンタル的に強くなった。東京にいたときは若かったし、とにかくフィジカルを押し出していたプレーもあったけど、今はスマートにプレーしている」

 慣れない日本語での受け答えも、バスケットボールの話になると流暢に言葉が紡ぎ出されていった。

 アメリカ・ロサンゼルスに生まれ、bjリーグ1年目にダレンは日本国籍を取得した。当時の所属チームであった東京アパッチの社長から「いずれルールが変わるから」と国籍の取得を頼まれたことがきっかけだった。「迷いはあった?」と聞くと、すぐさま「なかった」と返す。家族からの反対もなかった。「自分の夢をつかみなさい」と言ってくれたという。
 bjリーグ創設である2005-06シーズンから2008-09シーズンまで東京アパッチ、2009-10シーズンは大分ヒートデビルズに所属した。2010-11シーズンから再び東京アパッチに加入したが、新シーズンを迎える前にチームの資金繰りが難しくなり、活動休止となってしまった。

 「残念でした。チームとしての出来も良くなっていたときに終わってしまい、時期も急だったので」

 名残惜しむ気持ちはあるものの、「でも」と素早く切り返す。

「それは昔のことだから。今は考えてない。これから埼玉でまた頑張りたい」

 全く記憶にない、という意味ではない。彼にとっては合計で5年間所属したチームである。しかし、プロである以上はコート上で成果が全てであり、いつまでもその事実を引きずってもいられない。来るべき2011-12シーズン、新天地は埼玉ブロンコスとなった。偶然ではあるものの、8年前、ダレンが所属していたチームとU-18日本代表が試合をした際には、埼玉ブロンコスのキャプテンとなった北向由樹と顔を合わせている。

「ブロンコスは才能のある選手は多いなと。ただ、理由は明確にはわからないけれど、いくつか理由があって、プレーオフへの越えられない壁があったんだと思う」

 bjリーグ創設から参戦する埼玉ブロンコスであるが、プレーオフ進出を果たしたことはない。
 今シーズンは選手の顔ぶれを見ると、複数のポジションができる選手が多い。ただ、ビックマンが213cmのゲイブリエル・ヒューズしかおらず、チームでの連動がプレーオフへ進出、ファイナル4へのカギとなる。ダレンと同じガードのポジションにはNBAでもプレー経験があるサターフィールドをはじめ、ライバルとなる選手は多い。

「ジョンもケニー(・サターフィールド)も1番と2番のポジションができるし、試合によって、クォーターごととや流れの中で変えていくと思う。逆に、役割を固定すると負けてしまうかも。毎回、選手を動かしていかないと。そこはコーチのメンタルゲーム、チェスのようなね。ある場合によっては、ゲイブ(・ヒューズ)、ジョン(・ハンフリー)、ジェイミー(・ミラー)、ユウキ(北向)、テラ(寺下太基)。または、ゲイブ、ユウキ、テラ、ケニー、僕とか」

 まだ踏み得ていない境地に行くこと。その挑戦をしたい。そして、チャンピョンに。今シーズン、ダレンが掲げる目標である。

「must win。個人的なスタッツは関係ない、ベテランだから」

 声は弾む。新シーズンへの期待を込めるように。

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読者からの質問

-バッシュへのこだわりはありますか?
チームカラーと同じにすること。ほとんどナイキ、ジョーダンのものですね。ナイキIDが多いかな。自分で色などを選べるので。

-試合で履くのはいつも同じもの?
アウェイのときは同じものなんですけど、ホームのときは土曜日と日曜日で変えています。

-それには何か理由があるんですか?
いつも同じじゃつまらないし(笑)

-なるほど(笑)
あと、バッシュじゃなくて、普段に履く靴でも毎日変えています。今は500足くらい。

-500!?
日本にあるのは60~70足で、あとはアメリカにあります。15歳の頃からコレクターですね。向こうに帰るときに25足くらい持って行き、チェンジしています。

-たくさんのタトゥーがありますが、一つひとつに意味はありますか?
もちろん。例えば、両腕のものは4、5年前に入れたんですが「ロサンゼルス」を意味しています。

-全然関係ないんですけど、入れるのに何分かかるんですか?
これだと2時間くらいですね。

-学生のときから?
初めて入れたのは、16歳のときです。

-校則なし?
全然。アメリカだったからね。

-日本とアメリカではバスケットボールのスタイルはどう違いますか?
アメリカはフィジカルプレーが多くて。あと、すごいラフなプレーもしていますよ。日本はスピード感を生かしたプレーが多いですね。

-最初は戸惑った?
いや、全然大丈夫。日本に行く前に、アメリカで日本のチームと練習や試合もしていたこともあって。あと、ポジションがガードということもありました。センターだったら大変だったかも(笑)

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一問一答

-好きな数字
バスケットボールなら「10」

-嫌い数字
ない

-好きな言葉
Stay hungry

-嫌いな言葉
I can´t

-一番影響を受けた人
両親

-一番腹が立つこと
KYな人(笑)

-もし、バスケットボール選手じゃなかったら
バスケットボールチームのGM

-10年後は何をしている
日本でビジネスをしながら、バスケットボールチームに携わっている

-ライバルとしている選手
自分