ジェリコ・パブリセビッチHC(島根スサノオマジック) インタビューvol.2

(文=西本匡吾)

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日本のバスケットボールに必要なもの

-他のスポーツと比べてはいけないということはわかるんですが、サッカー、野球に比べると、バスケットボールはまだまだお客さんの数や盛り上がりは少ないです。これを打破していくためには、今後は何が必要になるでしょうか?正直なところ、どこに進んでいいのか、これから何をしていけば良いのか、多くの人がわかならい部分が多すぎると思っています。

私は日本代表の監督をしていたときに、日本バスケットボール協会にアジアのバスケットボールの分析とレポートをまとめてを出しました。どの国が何をしてどいういう段階で発展して、日本がどの段階で遅れてしまったのかということについてです。まず、他国の多くでは、バスケットボールは1番か2番の人気スポーツですが、日本がそれに近づくためには、多くのことを変えないといけないし、短期間では変わらないというのが現状です。日本で2006年に世界選手権が行われましたけど、それがマーケティング的に最大に活かされたかといえば、そうではないんです。それは収入を得るためのマーケティングではなく、国内でのバスケットボールの人気をあげるためのマーケティングが不十分だという意味で、です。そのためには3つのことが重要になります。

まずは選手の強化です。これは私が日本代表の監督を終えたときとそ以前を比べたら、良くなっているところもあります。二つの目が各リーグ。日本はbjリーグとJBLが存在しています。JBLが昔から存在しており、経験も持っていますけど、最近は成長していなんです。私が最後に日本にいた時は8つのチームで、現在も8チームです。でも、JBLはとても重要なリーグです。日本はJBLから始まっており、経済的な部分やレベルの高い日本人選手が存在しています。また、bjリーグはJBLと比べて若いリーグです。でも、コンセプトが違うため、凄く成長しています。今は両リーグ併せて27チームあります。各チームに8~9人の日本人選手がいたとすると、バスケットボールを専門にしている日本人は270人弱いることになります。bjリーグは日本のバスケットボールの強化にはとても重要な存在で、誕生することによって、より多くの選手達がトップレベルでバスケットボールをプレーすることができるようになりました。ひとつの部分に集中されていたところが、いろいろな地域のバスケットボールの成長に繋がりました。島根では、初めてbjリーグからの代表選手を出しました。今年は太田選手が代表に選ばれています。やっぱり、日本代表もbjリーグに目をつけないといけない状況になってきていると思います。それによって当然、bjリーグの選手のクオリティもあがってきます。

三つ目の点は日本代表ですね。この三点を強化したら、日本でのバスケットボールの人気度はあがっていきます。メディアが取り上げないから悪いというわけではなく、バスケットボールを関わっている我々が多くのことをやっていないのが問題なんです。われわれが絶対的に注目されるようにならないといけないのです。この各テーマについて細かく話せば、読まれる方が半年くらい掛かってしまうかもしれません(笑) 私にとっては日本は6年目で、日本代表、JBL、大学も見ていました。今はbjリーグを見ていますから、ほぼ、日本のバスケットボールの状況を知り尽くしていますので、どこを直さないといけのかはわかっています。ある一つの薬で良くなるというわけではなく、システム的な長期計画をしたうえで、直していかなければいけません。

-最初の強化の部分で、ひとつお伺いしたところがあります。bjリーグでもクリニックをしていているので、子供たちのプレーも見られていると思います。ヨーロッパの同年齢の子供達と比べると、もうこの段階で差がついてしまっているのでしょうか?

いえ、彼らに才能の差はありません。ただ、才能のある子供たちを見つけて、集めて、指導しないといけんです。日本のトップリーグの現状では、高校生と大学生の段階での強化はしていません。ほったらかしにされている状況なんです。本来は、そういう選手たちを集めて強化をしないといけないんです。それがヨーロッパと日本の一番の違いですね。日本はアメリカのシステムを真似しています。でも、アメリカは黒人選手たちが大勢います。彼らはバスケットボールに向いている能力を自然と持っています。さらに、凄い幅広い底辺からNBAという頂点にあがるシステムもあります。それはヨーロッパの国々にも、日本にもないんです。

でも、一方で、良い例もあります。例えば、リンク栃木ブレックス。このチームは下のカテゴリーを設け始めました。クオリティーの高いコーチである、元アルビレックス新潟bbの廣瀬さんを下のカテゴリーの担当者にしました。そういうカテゴリーを作って優秀な人を招けば、数年後には必ず良い選手が出てきます。大学から育ってくるのを待たずに、下のカテゴリーの練習によって早く成長させる方法もあります。ヨーロッパの場合は、各プロチームにはトップチームがあって、順々にあがっていきます。全てカテゴリーを持たないといけないです。それが義務付けられているからこそ、選手の強化に繋がっています。今の日本ではそういうカテゴリーを持つことは予算的に難しいと言い、経費としか考えていないんです。でも、私はそれは経費ではなく、重要な投資であると思います。クオリティーの高い選手はどんどん出てきますし、選手はそのチームで育ったから、なかなかチームを離れない。そのチームに対しての愛情も熱いわけです。あとは、何年に一度は特別な選手が出てくると、これは大きな経済的な価値もあります。

私が昔、サブレクに所属していたときに、若くて将来性のある選手がいました。私が指導した年に初めて、トップチームでプレーし始めたんです。一年後にレアル・マドリード(スペイン)でプレーしています。彼の多額の契約金で、チームに対して100万ユーロの移籍金が入ったんです。この選手の移籍金だけで、彼がいたカテゴリーの数年分の予算が貰えるわけです。

-ひとりの良い選手が出たら、もうそれで元が取れてしまう。

ヨーロッパの多くのチームは選手を育てて、他のチームに売るというのを計算しています。多くのトップクラス、トルコのトップチームやギリシャのオリンピアスでもその選手に十数年活躍する可能性があるなら、大金を払って選手を買い取ります。ちょうどこの間、クロアチアの15歳の双子の兄弟が、チームからお金を頂き、家族と共にそのチームの近くに引っ越した例があります。これは将来性があるから、投資しようとケースです。また、アメリカの大学も形は違えど、将来性のある選手を育てるというシステムはあります。bjリーグも今後、経済的に安定すれば取り組むべきだし、JBLはいまの段階で経済的に可能だと思います。下のカテゴリーを持つことによって、日本のバスケットボールの強化をしていくことが重要だと思います。

-現在、bjリーグでトップチームに出ている選手たちは多くの外国籍の選手とプレーしていますが、フィジカル的な部分、特に外国人に対して何をすべきなのかという点で、進歩していますか?

試合に出ている選手は良くなっていると思います。フィジカル的バスケットボールにしても、ポジショニング的なバスケットボールにしても簡単なことではないです。bjのなかには、素晴らしい日本人選手たちがいます。アグレッシブにプレーをして、チームを仕切って。その選手たちはとても成長しています。でも、成長しているのは試合に出ている選手たちです。また、違う面で得しているのは、練習で対峙している選手ですが、それは試合にでるほど成長はできません。石崎選手は、JBLでは相手の外国人選手は1人だけでしたが、bjリーグでは3人です。なので、そういう面ではbjリーグでプレーするほうが大変でした。彼はフィジカル的に他の日本人のガードに比べたら、強いほうです。しかし、bjリーグで外国人選手がマッチアップしてきたら、さらに高レベルの技術を磨いて勝たないといけないですから。そういう意味で彼は成長できたと思います。

今シーズンに向けての抱負

-そして、その石崎選手がドイツに移籍をされていまいました。チームで彼の穴はどう埋めていきますか?

石崎選手はbjリーグに入ったのも、ヨーロッパでプレーしたいという夢があったからです。上手くやれば、ドイツでも活躍できると思っています。私は彼の幸運を願いっています。確かにドイツの二部にですが、プレイタイムがもらえるかわからない一部のチームよりもこっちのほうが正解だったと思います。ここでさらに良いステップを踏めばさらに上にいけるでしょう。良い判断だったと思います。そして、どう彼が抜けた穴を埋めるのかというと・・・それは大変ですよ(笑)多少はマジックをかけたりして(笑)

-でも、あなたは4年前のインタビュー記事では「私は魔法使いではない」とおっしゃていたじゃないですか(笑)

ひとつ言えるのは、石崎選手がいたからこそ、山本選手と薮内選手がそれほどプレッシャーがかかっていない状況で、シーズンを通して成長できたことです。今は彼たちはその後を継がないといけないわけです。彼らがどこまでできるか、私も興味深くみています。

-今シーズンから仲摩純平選手が加入されました。彼のどんなところを評価していますか?

彼はシュート力があり、良く動くことができ、経験値のある選手です。まずは、このチームに要求されることとチームの戦術をしっかりと理解して、自分の特徴を見せていかなければいけません。私もそれがどこまでできるのか、興味深いです。まずは、ディフェンスでどれくらい対応できるのかを見て、次に先ほど述べた彼の特徴がどこまでいかされるのか。私達の考えとしては、各選手が自分のポジションを勝ち取らないといけません。こちらから与えることはないんです。

-今シーズンの目標は?

今年の目標は、ホーム開催でのプレーオフ進出です。実現できそうな目標ですけど、私達のカンファレンスでは大変な目標です。大阪、琉球、京都、滋賀、福岡・・・。また昨年私達より下位のチームも新加入選手で一気に強くなる可能性があります。外国籍選手が決まっていないチームもあるので、最大のライバルはどこかというのは現時点では言えないです。私達のチームは、外国籍選手の2人はそのまま残して、日本人選手は5人がそのまま残ってます。球団として安定するためには、チームが継続して安定することが重要だと思うからです。

-フロントとの連携を昨年以上に強化したり、下のカテゴリーを作るなど、個人的な部分で成し遂げたいことはありますか?

全てのカテゴリーを設けられないのなら、せめてBチームを設けたいです。若手中心の選手で週に2回でも3回でも練習をさせて、将来的にトップチームに入れるような選手がでてくれば良いと思いますね。

-最後に島根のブースターにメッセージを頂ければと思います。

私はこれはいつも同じことを言うのですが、私達は一生懸命戦いますので、熱い応援をお願いします。共に頑張りましょう!